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2020/05/25 19:24
井信行さんは、熊本・阿蘇にある人口1,500人の産山村で、
熊本あか牛とジャージー数頭の肥育をされています。
信行さんと初めてお会いしたのは4年前、2016年の2月。
仕事で熊本にお伺いする機会があり、熊本に行くなら
「井さんにぜひお会いしたい!」と私が熱望してのこと。
というのも、それ以前に、あらゆる料理人さんたちから、
「熊本あか牛だったら、井さんのあか牛を使いたいけど、
月に1頭しか出荷がないから、なかなか手に入らないんだ」
という話をよく聞いていたのです。
同じく、赤身品種である短角牛を扱っていた立場として、
『どんな方が、どんな風に育てたら、そんなに皆さんから
求めてもらえるような牛になるんだろうか、ぜひ勉強させてもらいたい』
っていう純粋な興味からでした。
その後、お肉を扱わせてもらうことになるなんて、発想はまったくなく。
井信行さんは、放牧を取り入れた、地域にある国産飼料100%で
あか牛を育てる循環型畜産で有名な生産者さんです。
そんな循環型畜産の取り組みが評価されて、2016年には
辻調理師専門学校創設者の名を冠した「辻静雄食文化賞」という賞を
生産者さんで初めて取られて、さらに食の世界で注目を浴びることになりました。
阿蘇の良質な粗飼料をめいっぱいあげる以外には、
仕上げのタイミングで、大豆を炒って擦ったものや、
オカラ、小麦、大麦、飼料米などをあげています。
信行さんは、この『大豆を炒って擦ったもの』がタンパク源として
ご自身のお肉の味わいを決めている大事なポイントだと考えていて、
「手間はかかるけど、これが私が育てるお肉の味の理由だと思う」
っていつも話されます。
信行さんは阿蘇の草原を守るためには、草で育つ、あか牛が必要で、
黒毛と違ってサシを求められないあか牛だからできること、
と考えられてます。
あか牛が草を食べてくれることで、
毎年春に行う野焼きもやりやすくなるし、
そうすることで、水源も守られる、
最終的には大好きな村も守られると考えています。
それなのに、あか牛も枝肉市場で販売すると、
2等級より3等級、3等級より4等級と、格付けが高いほうが
高い単価で売れるので、多くの生産者さんが黒毛と同じ輸入飼料で
あか牛を育てることを選択せざるを得ない現状を嘆いています。
私はこの信行さんの考え方がすごく腑に落ちて、
とても共感できました。
手間や時間はかかるけど、地域にある良質な粗飼料を食べて育ったお肉が
きちんとその努力に見合った評価をされることで、
息子さんである雅信さんをはじめとする、信行さんの後に続く方々が
その考え方・やり方を引き継いでくれることを切に願います。
そのために、流通側の自分たちにできることは、
大事に育てられたお肉たちを美味しい状態でお届けして、
少しでも多くの皆さんに、こういった生産者さんたちの
想いと取り組みを知って頂くことです。
こちらでも一部販売させて頂きたいと思いますので、
もしこの信行さんの考え方に興味を持って頂けるようでしたら
覗いてみて頂けたら嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。
2020.5.25 荻澤紀子